Roscellinus Compendiensis -8ページ目

木田元『反哲学史』

反哲学史 (講談社学術文庫)/講談社

¥972
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 ハイデガーを専門とする著者の哲学講義録をベースとした哲学史。

 主にソクラテス以前の思索者からニーチェまでを網羅しています。

 文章は平易、取り扱われている哲学者も読み解くのに苦労しないように配慮されています。

 しかし、タイトルに「反哲学史」として、このような平凡な哲学史の内容なら、多少とも読後感が悪い。もう少し掘り下げて欲しかったと思います。「反哲学史」のわりに普通の学部教育の1年生辺りが学ぶ内容。

 著者の他の著作、論文が稀有なだけに残念です。それでも初学者向けの水準は確保されています。

木田元『わたしの哲学入門』

わたしの哲学入門 (講談社学術文庫)/講談社

¥1,274
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 木田さんの魂の込められた珠玉の一冊。

 タイトルには「入門」と書かれているので、初学者向けの入門書と思うかもしれませんが、内容は非常に深く、射程が広い。著者の著作、論文のほとんどに目を通しているのに、本書の内容に脱帽しました。

 著者がハイデガーの視点から古代ギリシャからの哲学を考察しているのですが、非常にアクロバティックで新しい風を感じました。

 本書は雑誌「大航海」の連載ものをまとめた作品なのですが、非常に上手く構成され、議論も整理されています。もはや連載ものという枠組みを飛び出して、一冊の哲学書になっています。

 ここで提示されるのは、ソクラテス以前と以後の存在を巡る差異です。ソクラテス以前の思索家にとって「存在」は自然、生成だとし、ソクラテス以後、つまりプラトン以降の「存在」は被制作性、現前性だと解釈されます。この部分は本書にとって大変重要なタームであり、読んでもらうより仕方がないのですが、プラトンによってギリシャ的な存在概念が変更されたということになります。これが著者やハイデガーから見れば形而上学の始まりなわけで、これを克服しようという営みを歴史上から引っ張り出されます。読んで頂ければ理解できると思いますが、この克服の歴史が本書では見事に提示されています。

 欲を言えば、ライプニッツ、シェリング、ヘーゲルの考察がもっとなされてもいいかと思いますが、それは読者の課題としておいてもいいでしょう。

 本書は間違いなく日本の哲学界の救世主となるでしょう。本書から学ぶことは非常に多いです。是非本書に挑戦してください。

木田元」『ハイデガーの思想』

ハイデガーの思想 (岩波新書)/岩波書店

¥864
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 木田さんの著作の中でも名著。ハイデガーを学ぶ人が必ず読むべき名著。

 新書サイズだと軽視すると著者の射程の広さに屈服させられるでしょう。それだけ広く深く、濃密な内容になっています。

 他のハイデガー解説書と異なるのは、本書の内容が徹底した分析と根拠に加えて、根拠に基づいた著者の予見が入っているところです。何にしろターゲットへのアプローチは、独自の見解を生むことは否定できないでしょう。それが偶然性に依存するものか、必然性によるものかの違いがあるかのことです。その点では本書は十分な議論と根拠によって必然に高められています。

 特に語源解釈的に本来の存在という語は、自然であり生成であった。それがプラトン以降、自然と生成の制作(技術を含む)によって現前させられていることと説明されるのは傾聴に値します(つまり制作されたものは用具的存在者となる)。さらに、このアリストテレス的な存在観をさらに遡行して、古代ギリシャの自然観にこそ本来の存在が浮かび上がるのであるという解釈は、まさにハイデガーの目指したものであり、著者の哲学史観を明瞭に表しています。

 当然ながら、著者の哲学史観への反論は生じるものと思いますが、私はこれまで著者以上に説得力のある学説を見聞きしたことはありません。仮にあるとするならハイデガーそのものです。

 「存在と時間」を読んで本書を読むなら理解度が上るのは当然のことですが、そこには落とし穴があるように思われます。どうしても現存在の分析に引っ張られて、むしろメインテーマである形而上学的議論を飛ばして読んでしまうからです。私自身何度も読み返していますが、その都度スタート地点に戻される経験をしています。ですから、できるだけ先入観を排して本書にあたられることが望ましいと思います。

小川仁志『すっきりわかる!超解「哲学名著」事典』

すっきりわかる! 超解「哲学名著」事典 (PHP文庫)/PHP研究所

¥700
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 確かに簡潔に難しい概念を解釈し、提示されています。しかし、それが「すっきり!」するかどうかは読者の経験値次第だと思います。

 私にとっては物足りないし、本書を基準に何事かを書こうとすると書けないと思います。そもそも、原典を読んで読んでやっと分からない部分と咀嚼できる部分が分かるようになるわけですが、本書ではそれができない。あまりに簡単な説明に終始して、逆に分からなくなる人も出るはずです。

 とはいえ、本当の初学者にとっては良い導入材料になると思いますし、当然本書から原典へ向かう人の数は増えるはずです。この点においては、本書は初学者向けの解説書として悪く作用はしないでしょう。

ルネ・デカルト『省察』

省察 (ちくま学芸文庫)/筑摩書房

¥1,080
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 「方法序説」が羅針盤なら、本書は新大陸とでも呼ぶかのごとき名著。

 内容はほぼ神の存在証明なのですが、ある種異常なまでストイックに神の存在を証明しようとしています。

 これは「方法序説」の反響を受けて、デカルトが敢えて神の存在証明を行ったという経緯があるのですが、それにしても色々な角度から証明に挑戦しているのには敬意を払いたいと思います。

 デカルト自身も本書を書きながら、どの説明が妥当と判断されるのか試行錯誤しているのですが、結局のところ思惟する主体は有限であるから絶対、普遍、無限の神は存在するという格率に辿り着きます。

 ここは誤解が生じ易い部分なので補足しますが、まず有限であるということは無限(絶対、普遍)を基準に確定されるわけです。では、なぜ思惟する主体が有限な存在なのかといえば、それは不確実な存在なため思惟する=懐疑的だからということになります。絶対、普遍、無限の創造者である神は思惟する必要はないから、思惟する主体は絶対知をもたない故に不完全な存在となるのです。デカルトは、通例だと思惟する主体の可能性を模索してゆくはずなのですが、こと神の存在証明になると思惟する主体と神の関係の時系列、あるいはプライオリティーを逆転させるわけです。どう考えても思惟する主体には考える様態が必要になるが、神においてはそのような様態は必要ない。この証明には賛否両論あるのですが、この時代における最善の配慮を感じます。ある種の生得観念です。

 「また私が疑うということ、すなわち私が不完全なで依存的なものであることに注意するまさにそのとき、独立で完全な存在者の、つまりは神の、明晰判明な観念が私に現れてくる」①

 問題は神の存在証明にエネルギーが消費されている分、事物に関する考察がやや手ぬるいと感じます。この部分は上手く精神の様態に昇華されて、理解し辛いかもしれません。しかし、事物に関しては延長という属性で知覚するという基本方針は変化していません。

 ①デカルト著、山田弘明訳、2014、『省察』、p84 9l、筑摩書房

 
 

小川仁志『すっきりわかる!超訳「『哲学用語」事典』

超訳「哲学用語」事典 (PHP文庫)/PHP研究所

¥700
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 非常に面白い。異色の著者が哲学に挑戦しているのに好感をもちました。

 簡潔に言うなら、古い用語はあまり収録されていません。比較的現代に近い用語をあり得ない簡単な言葉で説明しています。

 例えば、ハイデガーの「現存在」は、著者の手にかかると「賢明に生きる人」となります。仮にテストやレポート、論文でこの訳語(意味)を使うならアウトです。しかし、具体的で質感は分かり易い。

 本書はそれで面白い試みなので私は評価しています。ただ、欲を言うならもう少し用語を増やして欲しかったと思います。

 既存の用語集と合わせて使えば、かなりの範囲をカバーできると思います。比較的現代よりの哲学、思想を学ぶ人には一冊あっても良いと思います。

野田又夫『デカルト』

デカルト (岩波新書)/岩波書店

¥799
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 哲学を学ぶ人が最初に出会うであろうデカルトの解説書。いわゆる「ノダマタ(哲学科での愛称)」。
 
 平易にデカルトの生涯から思索までが網羅されています。

 基本的にはデカルトの原典を読まないと理解度が上らないのですが、デカルトを読まなくともデカルトの思索の痕跡は感じられるようになっています。

 特筆すべきは神の存在証明。この部分は野田さん流に上手く解説されています。原典を読む前に本書を読むのも良し。原典を読み終えて整理をするために本書を利用するのも良いかと思います。

 デカルトの思索の核心を整理して、章立てられているので、用語集のように使うこともできます。これは著者の構成能力の高さゆえです。水準以上の評価だと思います。

デカルト『情念論』

情念論 (岩波文庫)/岩波書店

¥842
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 デカルトの著作のなかで異色の一冊。
 
 「情念論」というタイトルからは、何か欲望のようなものがテーマになっているのかと思われるかもしれませんが、内容はデカルトによる理性を正しく用いた人生論。
 
 現代医学からはデカルトの医学的記述のほぼ全てに異論が唱えられるのは当たり前ですが、その部分を捨象すれば、「方法序説」で示唆されていた理性的な生き方が提案されています。カントの「実践理性批判」のようなものです。いわゆる、道徳、モラル、生き方の細かな提案。
 
 「情念」と言うと、一般的には欲望だとか欲求というような言葉が連想されますが、デカルトが本書で用いている「情念」とは「感情」の意味です。さらに細かく言うと、その感情とは精神における「受動的感情」ということになります。逆にデカルトの述べている「情念」の反対には、「意志」が定位されています。当然、「意志」と「情念」は相互に関係し合う部分をもつのですが、デカルトは「情念」を身体的な知覚のカテゴリーに置いています。

 「情念」が定義された上で、デカルト的な生き方。処世術が展開されます。この部分の主要なテーマは、「情念」つまり「感情」を細かに分析して、それぞれの様態に接したときにどのように振舞うのかというものです。この時もデカルトは、神への信仰と信頼を前提に置きます。そして、デカルトの理想像が提示されます。

 「このように、高邁な人たちは、本性的に、偉大なことを行おうとするが、自分の能力のうちにあると感得しないことはいっさい企てない。また、他人のたまに善をなし、そのためには自身の利害を軽視することを最大のことと考えるから、誰に対しても、つねにこのうえなく礼儀正しく、愛想よく、親切だ。特に、自分の力で獲得できないもので、大きく望むに値するものはいっさいないと考えるから、欲望、執着、うらやみに乱されない」①

 近代的理性の道徳の側面を担うのが本書です。タイトルに億劫になるかもしれませんが、生きる指針が欲しい、あるいは自分の人生の方針を考え直したいという方には有益だと思います。

 ①デカルト著、谷川多佳子訳、2014、『情念論』、p136 7l、岩波書店

 

 
 

T-fal TASSE

T-fal ティファール TASSE タス 1.5L (電気ケトル)電気ポット/ティファール

¥価格不明
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 外気が寒くなってから重宝してる製品。

 すぐにお湯が沸くので便利です。

 私はコーヒーではなく、緑茶を入れて飲んでいます。特別に問題はありません。

デカルト『哲学原理』

哲学原理 (岩波文庫 青 613-3)/岩波書店

¥713
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 「方法序説」の展開的作品。
 
 二部構成の本書の中核は、一部の「人間認識の諸原理について」。この部分で良くも悪くもでデカルトの形而上学的スタンスが明白になっています。
 
 一部においてデカルトは精神と身体を分けることから、後世「心身二元論」と批判の的になるわけですが、丹念に読めば二元論ではなく、三元論だというのが理解できます。

 人間の精神と身体は、デカルトにとってより確実であるということからプライオリティーが付けられるのですが、それとは別に人間にとって永遠の真理である神も精神と身体から分けられています。

 この神と精神、身体の構図は、読者によって解釈が異なる部分ですが、デカルトの神の存在証明にはいくつかの問題が見て取れます。しかし、デカルトにとって神というのは、思惟する主体のバックボーンなのですから、神の存在は絶対である必要があると思います。デカルト自身も神については懐疑することが風変わりな態度であることを述べています。

 重要な一部は、ほぼ神の存在を確定させる狙いがあるため、デカルトには珍しい形而上学的記述に終始していますが、重要性は高いので一度は目を通すべきだと思います。