太宰治『富嶽百景・走れメロス 他八編』 | Roscellinus Compendiensis

太宰治『富嶽百景・走れメロス 他八編』

 

 

 太宰文学において『斜陽』や『人間失格』が道標なら、本作に収められている短編は太宰文学の可能性を無限に広げる濃密な作品群。

 

 前者が太宰プロデュースによる企画された価値ある作品に対して、後者、本作品群は純粋に太宰治という作家の能力を肌で感じられます。

 

 『走れメロス』や『駆け込み訴え』は誰もが知るところですが、特筆すべきは『女生徒』。少女の感受性を微細な点まで表現し、太宰にしか書けない少女の何気ない在り様が提示されます。この点で太宰治のファンに女性が多いのは必然かもしれません。

 

 この夏、一冊読むとしたら少しこそばゆい本作かもしれません。