マルクス『賃労働と資本』 | Roscellinus Compendiensis

マルクス『賃労働と資本』

賃労働と資本 (岩波文庫)/岩波書店

¥518
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 本書にも書かれていますが、本作は「資本論」の簡易版的扱いだと思います。ただ、簡易だからと言って中身がないことはありません。内容は「資本論」に劣っていないと思います。
 
 内容は労働賃金と資本、資本家の関係を分析しているのですが、非常に内容は面白いです。これからマルクスを見直そうという人、初めてマルクスに触れようという方にはお勧めです。
 
 資本家による大量生産のための技術革新は、雇用過多を招き、結果失業者が増える。そのため労働者同士の競争が生じ、より安い賃金の就職先に送られるということです。
 
 これは労働者階級にとっては実に悲惨なことで、労働者同士の陣取り合戦になって、自動的に労働者の平均所得が低くなるということです。資本家は大量生産と低価格の相乗効果で利潤を上げるわけですが、他方労働者にとっては競争と我慢が強いられることになります。
 
 ざっくり言えば、さらにマルクスは大量生産、大量資本の投下によって起きる市場の拡大→デフレ(マルクスは恐慌と呼ぶ)によって、労働者階級だけでなく資本家も自滅するのだと述べています。つまり、低価格、低コストの競争にも限界があり、資本家も労働者と共倒れになる恐れがあるということです。労働者同士の競争、資本家同士の競争というわけです。ですから、マルクスが後に階級闘争の分析と予測をするのは必然なわけです。闘争は何も資本家と労働者に限らないということです。
 
 読み方は色々ありますが数時間で読めてしまうので、「資本論」を敬遠しておられる方には満足いくものだと思います。
 
 「だが、わが資本家の特権は長続きするものではない。他の競争的資本家たちは、同じ機械、同じ分業を採用し、それらを同一またはより大きな規模で採用するのであって、この採用の一般化により、けっきょく、亜麻布の価格はその元の生産費以下どころか新たな生産費以下に下落するであろう」①

①カール・マルクス著、長谷部文雄訳、2008、『賃労働と資本』、p76 14l、岩波書店