カミュ『異邦人』 | Roscellinus Compendiensis

カミュ『異邦人』

異邦人 (新潮文庫)/新潮社

¥432
Amazon.co.jp
 
 カミュの誰もが知っている代表作です。
 
 私は本書を読む上で「実存主義」、「共産主義」などあらゆるレッテルを貼らずに読んでいます。
 
 現在とカミュの時代、あるいは地政学的な違いがあるので、読み始めは息苦しさや空虚感を感じるかもしれません。しかし、それにしても一部から二部への展開は面白いです。ベルクソンが因果関係の批判検証で指摘するように、主人公がなぜ殺人を犯したのかは因果関係で語れません。検察側は、殺意をもった凶悪な被告(弁護士もまた)に仕立て上げるのですが、被告にすれば殺してしまっただけなのです。
 
 これは危ない考え方だと捉える人もいるでしょうが、よくよく考えてみると殺人の動機、計画性は、殺人そのものが起きてから発生するものです。
 
 カフカとカミュがよく比較されていますが、前者は読者の恣意的な感受性に解釈をより任せるのに対して、後者はかなり読者の解釈を絞っているように思えます。その分、サルトルのような実存主義者のイデオローグにとって、カミュの「異邦人」は自立的立場を促す部分において取り込むべき格好の的だったのではないでしょうか。
 
 しかし、「異邦人」そのものが実存主義のテーゼでも何でもありません。「異邦人」は、一つの小説として自立的なのですから。